睡眠時無呼吸症候群(SAS)とCPAP療法:質の高い睡眠と健康
現代はインターネットやスマートフォンなどのグローバル化などによって、昼夜問わず活動する『24時間型社会』ともいわれ、国民の生活習慣は一昔前より大きく変化しています。
24時間型社会によって、不眠をはじめ睡眠の問題に悩む人が増えています。
睡眠は神経系や免疫系、内分泌系などに深く関係しており、心身の健康に欠かせない生活習慣の一つです。
睡眠障害の原因が睡眠時無呼吸症候群(SAS/サス)の場合、高血圧や心臓病、脳卒中などの生活習慣病の発症リスクを高めます。
また、睡眠時無呼吸症候群患者の交通事故の発生リスクは一般ドライバーの7倍であると言われています。
2003年に山陽新幹線が到着駅を通り過ぎて緊急停止する事故を起こした運転手が睡眠時無呼吸症候群であったことで、この疾患が世間に広く知られるようになりました。
2012年の関越自動車道でバスが高速道路脇の壁に衝突し、乗客7名が亡くなり、38名が重軽傷負った痛ましい事故を起こしたバスの運転手も睡眠時無呼吸症候群による眠気のせいで居眠り運転をしてしまったと証言したことから、さらに世間の注目を集めました。このように、自動車事故などの原因となることも多く、社会全体の深刻な問題ともいえます。
今回は、健康面に影響したり、生活の質の低下を招く恐れのある睡眠時無呼吸症候群についてご紹介します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS/サス)とは?
Sleep Apnea Syndrom
睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返し、酸素供給が中断または低下する病気です。
一時的に低酸素状態になることで、睡眠状態を悪化させるだけでなく、体への負担も大きい疾患です。
潜在患者の人数は500万人とも言われています。
◆ 無呼吸:10秒以上の呼吸停止
◆ 低呼吸:通常呼吸の70%の呼吸が10秒以上続く
SpO2(酸素飽和度)が3%以上低下
SASの主な症状
1.眠っている時
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大きないびきをかく
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息が止まる
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呼吸が乱れる
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息苦しくて目が覚める
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夜中に何度もトイレに起きる
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熟睡感が得られない
2.日中、起きている時
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起床時に頭痛やだるさを感じる
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疲労感やだるさが常にある
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日中でもしばしば眠くなったり、居眠りをする
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記憶力や集中力が劣る
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性欲がなくなる
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性格が変化する
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体を動かすときに息切れする
睡眠時無呼吸症候群の分類
SASは、主に二つのタイプに分かれます。
1.閉塞性睡眠時無呼吸症候群( OSAS )
主に肥満などの影響で舌根沈下を起こし気道を閉塞することで、一時的に呼吸停止が発症します。
脳は適切に呼吸せよと命令を出していても、空気の通りが悪いことでうまく呼吸ができず、大きないびきをかきます。
無呼吸時にも胸腹部の動きがあるのが特徴で、肥満以外にも加齢、寝酒、喫煙、顎が小さい、舌が大きいなどの要因があります。
また、花粉症やアレルギーになどで鼻が詰まりやすかったり、アデノイドなどにより扁桃腺が肥大している場合にも発症します。
※アデノイド:鼻の奥にある部分のリンパ組織(咽頭扁桃)が肥大したまま、小さくならない状態です。
2.中枢性睡眠時無呼吸症候群( CSAS )
心房細動や心不全など心臓の病気や脳の病気などの影響で、脳からの適切な呼吸信号が不足するため、呼吸停止が発症します。
呼吸中枢機能の低下が原因で、無呼吸時には胸腹部の動きも停止しており、いびきもほぼ無いのが特徴です。
➡SASの約9割が閉塞性睡眠時無呼吸症候群( OSAS )と言われています。
また、中枢性から閉塞性に移行するような症状の混合性睡眠時無呼吸症候群( MSAS )もあります。
睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病の関係について
就寝中に低酸素状態になることで、体が酸素不足になります。
酸素が足りなくなる分、心臓は酸素を取り入れようとして急激に心拍数を上げます。
心臓は、24時間365日動き続ける臓器であり、通常であれば睡眠中の心臓は負荷の少ない状態で安静に保たれています。
しかし、無呼吸症候群による低酸素状態では、心臓が非常に激しく働くため心臓や脳に負担がかかります。
そのため、慢性的な睡眠不足によって、心血管疾患(心不全、心筋梗塞など)、高血圧、糖尿病、うつ病などのリスクを増加させることが知られています。
心臓が心拍数を上げて頑張っても低酸素が続いた場合、心筋梗塞・不整脈・脳卒中など致命的な病気が起こるリスクが高まります。
睡眠時無呼吸症候群でない人と比較した場合の疾患発生率は1.5倍から3倍にもなると言われています。
このように睡眠時無呼吸症候群は、睡眠などの日常生活に影響を及ぼすだけでなく、重大な健康リスクを高める可能性のある病気です。
睡眠時無呼吸症候群の診断から治療の流れ
睡眠時無呼吸症候群は、症状をきっかけとして疑われることが一般的ですが、問診だけで確定診断されることはありません。
確定診断をするためには、医師の診察(診断)のあとに「睡眠中にどれくらい無呼吸になっているか」を計測する検査を受ける必要があります。
検査は、簡易モニター検査と精密検査(ポリソムノグラフィー/PSG)があります。
また、計測結果にて睡眠中の1時間あたりに発生する無呼吸と低呼吸の指数(AHI)にて、重症度を分類します。
簡易モニター検査
簡易モニター装置を自宅に持ち帰って行う検査です。
就寝時に鼻呼吸センサーと酸素濃度センサーを装着して、睡眠中に発生した無呼吸の回数や血中酸素濃度・いびきの状態などを検査します。
1~3日(夜間のみ)計測した記録から、睡眠時無呼吸症候群の有無を調べます。
簡易モニター検査は、入院の必要がなく、自宅で行えることと費用面の負担も軽いというメリットがあります。
しかし、精密検査(ポリソムノグラフィー/PSG)と比べると検査精度や項目数で劣るため、睡眠時無呼吸症候群の程度について大まかな目安を把握するための検査であり、計測結果により精密検査を追加で受ける必要があります。
※簡易モニター検査で、AHI 40以上の場合は睡眠時無呼吸症候群と確定診断され、CPAP治療の適応になります。
簡易モニター
【簡易モニター検査の費用】
保険適用で3割の自己負担の場合、酸素濃度を測るだけの検査は300円ほど、呼吸状態も合わせて調べる検査では3,000円ほどです。
検査は自宅で受けられますが、保険適用で検査するためには医療機関の受診が必要であり、受診料が別途必要です。
精密検査(ポリソムノグラフィー/PSG)
ポリソムノグラフィーは睡眠時無呼吸症候群の診断において最も精密な検査です。
PSGと略されることもあり、「ポリグラフ検査」と呼ばれることもあります。
基本的に入院が必要な検査です。通常個室での1泊入院で行われます。
脳波や心電図、筋電図、呼吸モニター、血中酸素モニターなど多種類の測定機器をつけながら、一晩計測します。無呼吸・低呼吸の回数(AHI)や閉塞性と中枢性の無呼吸を区別するだけでなく、眠りの質や体位と無呼吸の関係などさまざな観点から睡眠を評価します。
【ポリソムノグラフィー検査の費用】
保険適用で3割の自己負担の場合、入院費用(個室料金)を含めて、15,000円~40,000円程度になることが一般的です。
田守クリニックでは、簡易モニター検査を受けていただけます。
簡易モニター検査でAHI 40以上の結果がでた場合、在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)を導入し、治療を開始できます。
AHI 20以上40未満の場合は、精密検査(ポリソムノグラフィー)を受けられる病院をご紹介いたします。
在宅持続陽圧呼吸(CPAP)療法
睡眠時無呼吸症候群と確定診断されると、CPAPと呼ばれる呼吸器をつけて就寝する治療法が適応となります。
睡眠時にCPAP装置を使用することで、常に鼻から空気を送り込み気道を閉塞するのを防ぎます。
気道の閉塞を防ぐことで、呼吸状態が良くなり眠りの質も改善されます。
日本の睡眠時無呼吸症候群500万人程度いる患者のうち、適切な治療を受けられている方は1割程度といわれています。
【CPAP治療の費用】
保険適用で3割の自己負担の場合、月額4,000円ほどです。
CPAP療法の流れ
受診➡検査➡確定診断➡CPAP処方となれば、CPAP装置を取り扱っている業者(田守クリニックではフクダ電子)をご紹介します。
後日、専門業者がご自宅に訪問し、CAPA装置の設置や取り扱い方の説明をします。
最後に
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている時の問題であることから本人が自覚するまでには時間がかかります。また、自覚しても医療機関に受診するまでに至らなかったりするケースが多いため、正確に診断される患者が少ないとされ問題視されています。
睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきや睡眠障害だけの問題ではありません。仕事などの日常生活に支障が出るだけでなく、居眠り運転による自動車事故などの発生リスクも高くなります。長年放っておくと心血管疾患、高血圧、糖尿病、うつ病などのリスクを増加させるなど、様々な疾患を引き起こす恐れがあります。
睡眠中のいびきや息苦しさ、日中の眠気や集中力の低下など、少しでも睡眠時無呼吸症候群の疑いがある方は、医療機関を受診されることをお勧めします。