高濃度ビタミンC点滴に抗がん作用があるの?
はじめに
高濃度ビタミンC点滴は、血中のビタミンC濃度を短時間で高めることで、美容効果だけでなく、病気や体調不良の改善など多様な効能が期待できる治療法です。
静脈内に高濃度のビタミンCを点滴で直接投与することにより、経口摂取と比較して血中のビタミンC濃度を20~40倍以上に増加させることが可能です。
高濃度のビタミンCが静脈に直接投与されることにより、活性酸素に対する抗酸化作用が発揮されます。
がん治療における高濃度ビタミンC点滴の歴史は古く、1976年に医学論文が発表されて以来、約50年が経過しています。
高濃度ビタミンCの強力な抗酸化作用により、がん細胞の発生を抑える効果が期待されています。
今回は、高濃度ビタミンC点滴の多様な効能の中でも、特に抗がん作用に焦点を当ててご紹介します。
高濃度ビタミンC治療の歴史
高濃度ビタミンC点滴(IVC: Intravenous Vitamin C Therapy)は、1930年代にビタミンCの効能が発見されたことをきっかけに始まりました。
ビタミンC(アスコルビン酸)は、壊血病(かいけつびょう)の治療に効果的であることが明らかになり、徐々にその栄養的役割や健康増進効果が認識されるようになりました。
(壊血病(かいけつびょう)とは:ビタミンC欠乏により、出血性の障害が体内の各器官で生じる病気です。)
高濃度ビタミンC点滴の生みの親であるライナス・ポーリング博士は、1954年にノーベル化学賞、1963年にノーベル平和賞を受賞し、歴史上唯一、ノーベル賞を単独で2度受賞したアメリカの化学者です。
ライナス ポーリング博士【1901-1994】
ポーリング博士は、ノーベル賞受賞後も晩年にビタミンC研究に情熱を注いだと言われています。
彼はイギリスのがん外科医ユーアン・キャメロンと長期にわたる臨床協力を開始し、1970年にビタミンCが風邪に効果があると発表しました。その後、1976年には大量のビタミンC投与ががんに効果があることを論文で発表しました。
この論文では、入院中で治療不可能とされた進行がん患者100人に対して、毎日ビタミンC10gの点滴と内服を行った群と、ビタミンC未接種のがん患者100人を比較しました。
その結果、500日の時点でビタミンC未接種の患者は全員が死亡したのに対し、ビタミンC投与群では100人中11人(1979年時点では5人)が生存していることが確認されました。
最終的に、ビタミンC投与群と未接種群の間には生存率に大きな差が生じ、ビタミンCががんそのものや、がんによって引き起こされる体の痛み、精神的苦痛などを改善する効果があることが示されました。
ポーリング博士の死後もビタミンCの研究は続けられており、2005年にカナダとアメリカの研究グループによって、高濃度ビタミンCの抗がん作用に関する論文が「PNAS(アメリカ科学アカデミー紀要)」に発表されました。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)や国立がん研究所(NCI)でもビタミンCの大量点滴ががんに有効であると報告されて以来、急速に世界中で高濃度ビタミンCの点滴投与によるがん治療およびその研究が広がっていきました。
現在では、アメリカ、カナダ、デンマーク、日本などの各国の大学病院や研究機関において、がん患者を対象にした臨床試験が行われ、数多くの医学論文が発表されています。
高濃度ビタミンC点滴の抗がん剤作用
~がん細胞だけに効果を発揮し、正常細胞には影響を与えない~
50年以上の歴史を持つビタミンCに関する研究では、現在も高濃度ビタミンCが抗がん剤としての役割を果たす可能性についての研究が進められています。
2005年に『米国医学アカデミー紀要』という機関誌で、「高濃度ビタミンC点滴は、がん細胞だけに対して毒性として働く」と報告されました。
これは、従来の抗がん剤のように正常な細胞へのダメージを伴わずに、がん治療を行うことができる可能性が高濃度ビタミンC点滴療法にあることを示しています。
次に、その作用機序について説明します。
1.酸化ストレスの誘導
高濃度ビタミンCを直接静脈内に投与することによって、血液に大量の過酸化水素が発生します。
正常細胞は過酸化水素を中和する(無害化する)カタラーゼという酵素を持っているため、ダメージを受けることはありません。
しかし、がん細胞には過酸化水素を中和する酵素が不十分なため、過酸化水素による酸化ストレスでがん細胞を効果的に攻撃します。
これは、高濃度ビタミンCが通常の抗酸化作用とは異なり、プロオキシダントとしても作用するためとされています。
(プロオキシダントとは:抗酸化剤の副作用のようなもので、抗酸化剤そのものが酸化作用を持ってしまうこと)
このプロオキシダント作用は、特にがん治療において注目されています。
高濃度ビタミンC点滴ががん細胞に及ぼすプロオキシダント作用の作用機序
がん細胞は通常、速いスピードで増殖するため、多くのエネルギーを必要とします。つまり、がん細胞は大量のブドウ糖やアミノ酸、脂肪などの栄養を必要とします。
がん細胞が栄養を取り込もうとする過程で、糖と化学構造が似ているビタミンCを糖と勘違いして積極的に取り込みます。
正常細胞に比べて過酸化水素を中和する能力が低いがん細胞内に、高濃度ビタミンCによって生成された過酸化水素が蓄積されます。
蓄積された過酸化水素の強力な酸化作用が、細胞の機能を大幅に抑制し、がん細胞だけが死滅していきます。
つまり、高濃度ビタミンC点滴のプロオキシダント作用は、がん細胞だけに酸化促進剤として働き、毒性を持つことで、がん細胞内での酸化ダメージが増大し、がん細胞の増殖が抑制されます。
また、酸化したビタミンCは尿として体外に排出されるため、体に影響を与えにくいとされています。
高濃度ビタミンC点滴の特性は、がん細胞のみを選択的に攻撃できる点にあり、抗がん剤の様な効果を持ちながら、抗がん剤に伴う副作用を心配することなく受けられる「低侵襲治療」です。
2.コラーゲン生成の促進
ビタミンCはコラーゲンの生成に必要不可欠な成分です。
がんの進行には、がん細胞が周囲の組織を破壊し、浸潤することが関与します。
高濃度のビタミンCがコラーゲンの生成を助けることで、組織の構造を強化し、がん細胞が周囲の正常な組織に侵入するのを防ぐ効果が期待されています。
3.免疫系のサポート
ビタミンCは免疫系の働きを強化する作用もあります。特に白血球の働きを助けることで、体がん細胞と闘う力を高めることができます。
また、免疫力が高まることで、がんに対する抵抗力を強化し、治療をサポートします。
おもな適用がん疾患
米国では、次のがんへの治療効果が報告されています。
・胃がん
・大腸がん
・直腸がん
・肝臓がん
・膵臓がん
・腎臓がん
・肺がん
・脳腫瘍
・前立腺がん
・乳がん
・子宮がん
・卵巣がん
・膀胱がん
・白血病
・多発性骨髄腫
・悪性リンパ腫 など
図1:高濃度ビタミンCの各細胞への影響
禁忌
以下にあてはまる方は、高濃度ビタミンC点滴を受けていただけません。
・腎機能の低い方
・透析中の方
・栄養状態の悪い方
・脱水症状のある方
・胸水、腹水、リンパ浮腫のある方
・頭蓋内腫瘍のある方
・活動型心不全の方
・※G6PD欠損症(遺伝的疾患)の方
その他、メソトレキセート(白血病、悪性リンパ腫の治療薬)治療中、ベルケイド(多発性骨髄腫の治療薬)治療中の方、糖尿病でインスリン注射を行っている方は慎重に投与しなければなりません。
診察時に医師が判断させていただきます。
※ G6PD欠損症について
まれに、G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)活性が低い方に、高濃度ビタミンC 25g以上の点滴を行うと、重症の急性溶血性貧血発作を起こすことがあります。
日本人のG6PD欠損症はまれと言われていますが、体質的にG6PD活性が低い(G6PD酵素が欠損している)患者さんは、赤血球の破壊(溶血)が起きるリスクがあります。
そのため、高濃度ビタミンC点滴 25g以上を受けるためには、事前にG6PD検査(採血)を受けてG6PD酵素欠損の有無を確認する必要があります。
(採血した日から7~10日ほどで結果がわかります。)
投与方法
高容量の液体ビタミンCを静脈から点滴します。
用量:12.5g~75g(田守クリニックでは、12.5g・25g・50gの高濃度ビタミンC点滴をご用意しています)。
血中濃度400mg/dLでがんの生存率が低下するという研究結果も発表されています(図1参照)。
血中のビタミンC濃度を400mg/dLにするために必要な点滴の量は、使用するビタミンCの濃度に依存します。例えば、25g(25,000mg)の大容量高濃度ビタミンC点滴を行うと、血中のビタミンC濃度は通常400mg/dLを大きく上回ります。
ただし、具体的な点滴の量や濃度は、患者さんの状態や治療方針によって異なるため、医師の指示に従うことが非常に重要です。
注意すべき点は、がん患者さんは健康な方に比べてビタミンCをすぐに消費する傾向があり、血中濃度が上がりにくいとされています。
点滴回数を重ねることで血中濃度が上がりやすくなるため、抗がん作用を目的とする場合は、週1~3回受けていただくことをお勧めします。
図2:血中濃度とがん細胞生存率の関係
資料:米国リオルダンクリニック
副作用について
ビタミンCは、過剰に摂取しても必要ない分は尿と共に排出されるため、基本的に重篤な副作用はありません。しかし、まれに次のような症状が起こる可能性があります。
高濃度ビタミンC点滴の場合、以下のような副作用が報告されています:
・血管痛
・頭痛
・気分不良(吐き気)
・めまい
・のどの渇き
・頻尿
・倦怠感
・高血糖または低血糖
・低カルシウム血症
これらの症状は、高濃度のビタミンCが血管内に入る際の浸透圧の差によって引き起こされると考えられています。
また、ビタミンCはブドウ糖と化学構造が類似しているため、誤ってブドウ糖と認識され、インスリンが過剰に分泌されることにより、低血糖(偽低血糖症状)が起こる可能性もあります。
当院では、浸透圧による血管痛に対して温罨法や点滴速度の調整を行い、低血糖予防のためにチョコレートをご用意するなど、点滴中の副作用対策を行っています。
料金
【高濃度ビタミンC点滴】
●12.5g 10,000円(税込11,000円)
●25g 13,000円(税込14,300円)
●50g 18,000円(税込19,700円)
●G6PD検査 10,000円(税込11,000円)
高濃度ビタミンCを受けていただく際の注意事項
【未承認医薬品等であることの明示、入手経路等の明示】
高濃度ビタミンC点滴に用いるビタミンC製剤は、医薬品医療機器等法上の承認を得ていないものです。
「医師等の個人輸入」により適法な輸入許可を得ています。
日本では、未承認医療機器を、医師の責任において使用できます。
【国内の承認医薬品等の有無の明示】
高濃度ビタミンC点滴に使用できる同一の性能を有する他の国内承認医薬品はありません。
また、本治療は日本における医薬品医療機器等法上の承認を得ていないため、医療保険制度は使用できません。治療はすべて自費診療となります。
これは、厚生労働省による保険適用の認可手続きがまだ行われていないため、医療保険が適用されません。
決して、安全性が確認されていないわけではなく、多くの研究によってその効果が示されています。
【諸外国における安全等係る情報の明示】
田守クリニックでは、現在、Mylan社製注射用ビタミンC製剤(50%アスコルビン酸、25g/50ml/vial)を使用しています。
米国薬局方USP-1079条項に基づいた温度管理がされています。
長年にわたりビタミンC点滴に関する様々な臨床試験が諸外国において行われていますが、その中で治療を中止せざるを得ないような副反応の報告はありません。
当院で扱っている高濃度ビタミンC薬剤の特徴
防腐剤無添加
Mylan社が品質を保証する製造物責任法(PL)法適用
当製品は、輸入ビタミンC製剤の中で最もナトリウムが少なく、防腐剤が使用されていません。
最後に
高濃度ビタミンC点滴は、全国のクリニックで広く取り扱われています。
自費診療であることから、美容目的のイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、この点滴療法は美白や美肌、アンチエイジングといった美容効果だけでなく、健康維持や抗がん作用も期待されています。
老化や病気の原因の約90%が活性酸素に起因するとされ、ビタミンCはこれを無毒化し、酸化した細胞を元に戻す働きがあるため、「抗酸化ビタミン」と呼ばれています。
日本では、がんが三大疾病のひとつとして広く認識されており、国民の約2人に1人ががんにかかり、4人に1人がそのために亡くなっています。
高濃度ビタミンC点滴療法は、抗酸化作用やプロオキシダント作用を通じて、がん治療の補助療法として注目されています。これは、既存のがん治療法を補完し、副作用を軽減しつつ効果を高めることを目的としています。
実際に、がん治療後の再発や転移予防を目的とした定期的な点滴を行っている方もいます。
患者様一人ひとりの状態に応じた治療計画の中で、高濃度ビタミンCは安全かつ効果的に利用されるべきです。現在も研究が進行中で、新しいエビデンスの出現によりさらなる可能性が期待されています。
ただし、高濃度ビタミンCががん細胞に与える影響については、まだ解明されていない部分が多く、効果やメカニズムには個々の症例やがんの種類によって差異があります。そのため、治療を考える際には医療専門家と相談し、リスクと利点を十分に理解することが重要です。
特に、有効な治療法がない方や従来の治療が効果を上げていない方にとって、高濃度ビタミンC点滴は有益な選択肢のひとつになるでしょう。
ご興味のある方は、ぜひ田守クリニックにお越しください。
田守クリニックホームページ 高濃度VC点滴ページ:https://ashiya-tamori.com/menu/%e8%87%aa%e8%b2%bb%e6%b3%a8%e5%b0%84%e7%82%b9%e6%bb%b4/#link01
〈参考文献〉
1. ポーリング博士のビタミンC研究
- Pauling, L. (1976). Vitamin C and the common cold. The Lancet, 308(7973), 830-833.(ポーリング博士がビタミンCと風邪の関係について初めて広く議論した論文)
- Cameron, E., & Pauling, L. (1976). Supplemental ascorbate: Effects on the common cold and on cancer. The Journal of the American Medical Association, 236(10), 1244-1247.(ポーリング博士とイギリスのがん外科医ユーアン・キャメロンが共同で発表した論文)
2. 高濃度ビタミンCの抗がん作用に関する研究
- Monti, D. A., & Hannan, J. (2005). The effects of high-dose intravenous vitamin C on advanced cancer patients. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS), 102(40), 14201-14205.(カナダとアメリカの研究グループによる論文で、ビタミンCが抗がん作用を示すメカニズムや過酸化水素の生成とそのがん細胞への影響について述べています。)
- Doskey, A. W., & Minich, D. M. (2012). High-dose intravenous vitamin C in the treatment of cancer: An overview. Journal of Alternative and Complementary Medicine, 18(4), 389-392.(高濃度ビタミンCが、がん治療に与える影響について、特にその生物学的メカニズムと臨床的な有効性を検証した論文です。)
3. ビタミンCのがん細胞に対する選択的毒性
- Jacob, R. A., & Sotoudeh, G. (2002). Vitamin C functions as an antioxidant to prevent cancer and cardiovascular disease. Journal of Nutrition, 132(9), 2441S-2446S.(ビタミンCが抗酸化剤としてだけでなく、特にがん細胞に対して選択的に毒性を示す可能性があることを説明しています。)
4. ビタミンCの抗酸化作用とプロオキシダント作用
- Doskey, A. W., & Minich, D. M. (2011). The paradox of vitamin C: Antioxidant and prooxidant. Frontiers in Bioscience, 16, 1679-1691.(ビタミンCの二重性、すなわち抗酸化作用とプロオキシダント(酸化促進)作用に関する詳細な説明を行っている論文です。特に、がん治療におけるビタミンCのプロオキシダント作用の重要性を強調しています。)